危険ドラッグ「ゾンビタバコ」に関する調査報告「ゾンビタバコ」とは?若者に拡散する危険ドラッグの実態と健康被害のリスク危険

「ゾンビタバコ」とは何か

危険ドラッグとして報道された「ゾンビタバコ」とは、電子タバコのリキッド(液体カートリッジ)に含まれる違法成分による新手の薬物です。そのリキッドには、海外で鎮静剤や全身麻酔の導入剤として使われる医薬品成分「エトミデート」が含まれており、日本国内では未承認の物質です。エトミデートは麻酔薬であり、乱用すると強烈な眠気や意識混濁、最悪の場合は意識不明に陥るほどの作用をもたらします。こうした使用者がまるでゾンビのように意識が朦朧とした状態になることから、海外ではこのドラッグが「ゾンビ・タバコ(ゾンビたばこ、Zombie Cigarette)」と通称されています。

日本国内では密売人たちがこのリキッドを俗に「笑気麻酔」と称しており、一見すると医療用の「笑気ガス(亜酸化窒素)」のように聞こえます。しかし実態は前述の通り全く異なる強力薬物であり、若者の間でSNSを通じて流通・乱用されていることが確認されています。電子タバコのスタイリッシュな見た目やフレーバーに紛れて、この危険ドラッグが違法に出回っており、使用した10~20代の若者には意識混濁や手足の痺れなどの健康被害が報告されています。海外ではこのリキッドが「合法代替大麻」などと謳われクラブやSNS上で売られた例もあり、乱用すれば手足の震えや立ちくらみ、呼吸停止による死亡など深刻な被害を引き起こし得るとされています。実際に台湾では本薬物を使用したとみられるドライバーによる交通事故が発生し、警官が死亡するといった事件も起きています。

まとめると、「ゾンビタバコ」は電子タバコを媒体とした新種の危険ドラッグであり、その成分エトミデートの強い鎮静作用によって使用者を半ば無意識の“ゾンビ”状態に陥らせる非常に危険な違法ドラッグです。日本でも若者を中心に密かに出回り始めており、行政機関や専門家は「決して買わない、使わない、関わらないよう」強く注意を呼びかけています。

沖縄県警が押収した「笑気麻酔」と称される電子タバコ用リキッド。無色のカートリッジ内に濃色の液体が封入されている(沖縄県警提供)

報道のタイミングと背景

ANNニュース(テレビ朝日系列)は2025年5月4日放送の朝番組「グッド!モーニング」で、この「ゾンビタバコ」問題を取り上げました。報道の契機となったのは、同年5月1日に沖縄県と沖縄県警ら関係機関が県内でのゾンビタバコ(俗称「笑気麻酔」)乱用確認について発表したことです。実は沖縄県警ではそれ以前の2023年2月頃から、不審な交通事故や薬物事件の捜査過程で押収した電子タバコ液体から成分を鑑定したところ、エトミデートの検出が相次いでいました。2025年2月~4月にかけて約150個ものリキッドが押収されており、若年層による乱用が疑われたことから、県警と県が合同で実態を公表し注意喚起に踏み切ったものです。

この国内発表と同日に、厚生労働省も「国内未承認の医薬品成分エトミデートを含有する製品に対する注意喚起」を報道発表しています。厚労省の通知では、沖縄県等からエトミデート含有製品の乱用事例が確認されたとの報告を受けたこと、本成分を含む製品の購入・摂取をしないよう呼びかけること、そして人への吸引を目的とする製品に医薬品成分を含めて無許可販売する行為は法律で禁じられていることなどが示されました。このように、国内では5月初旬に行政からの注意喚起とメディア報道が同時期に集中して行われており、社会問題化しつつある状況がうかがえます。

一方で、この危険ドラッグは海外では2024年頃から東アジア・東南アジアで急速に流行し、すでに社会問題化していました。以下に関連する国内外の主な動きを時系列で整理します。

こうした流れを見ると、日本での報道タイミング(2025年5月初頭)は、沖縄での実例確認と行政の警告、公的機関の規制準備が重なった時期であることがわかります。背景には、近隣の台湾やタイで前年から今年にかけて同様の薬物乱用が拡大し深刻な社会問題となっていたことがあり、日本もそれに追随する形で被害が現れ始めた可能性があります。実際、台湾では2024年の時点でエトミデート乱用により死亡事故や巨額の密輸事件まで起きており、法規制を緊急強化しています。タイでも若者への蔓延と危険性増大を受け、政府主導で電子タバコ全般の取締り強化に乗り出しました。こうした海外動向を踏まえ、日本の厚労省や警察も遅れまいと迅速に注意喚起・対策に乗り出したと考えられます。

関係者(製造・販売業者、行政・規制当局、報道機関)の相関

「ゾンビタバコ」問題には、違法ドラッグの製造・流通に関わる業者から、それを取り締まる行政機関・規制当局、そして情報を伝える報道機関まで、複数の主体が関与しています。それぞれの役割と相関関係を整理すると次の通りです。

上記のように、「ゾンビタバコ」問題では違法ドラッグビジネスの供給側(海外製造・国内販売)と需要側(消費者)、そしてそれを規制・抑止しようとする公的機関(警察・厚労省・自治体)、さらにそれらの動きを伝えるメディアがそれぞれの立場で関わっています。流通経路としては、海外の闇市場で製造→密輸入→国内でSNS販売→若者が入手・乱用、という構図が浮かび上がります。行政・捜査当局はそれを受けて実態解明と規制対応に動き、メディア報道によって社会全体へ警鐘が鳴らされました。

法規制や摘発強化の動き

現状、日本においてエトミデートは医薬品医療機器法に基づく「指定薬物」にはまだ指定されていません(2025年5月時点)。指定薬物とは乱用の恐れがある物質を所持・使用まで禁止できる政令指定物質ですが、本物質は想定外の新種であったため法の網をすり抜けていました。しかし前述の通り、厚生労働省は現在エトミデートの有害性情報を収集し、指定薬物への追加指定を含め法的措置を検討中です。指定薬物に指定されるためには専門家会議等の手続きを経て政令改正が必要ですが、海外での深刻な被害例も踏まえ緊急指定も十分考えられます。実際、2014年の脱法ドラッグ騒動の際には、致死的事故を契機に新規物質(合成カンナビノイド類)がわずか数週間で指定薬物に指定されるという迅速な対応がとられた前例があります。今回も社会問題化する前に法規制の網をかけるべく、厚労省が動いている段階と言えます。

一方で、現行法の枠内でも一定の取り締まりは可能です。厚労省の通知が示すように、本件リキッドは「人体に吸入させる目的で医薬品成分を含有する製品」であるため法律上は無許可医薬品(未承認医薬品)の販売」に該当します。したがって、販売・頒布行為を行えば薬機法違反(第55条違反など)として逮捕・摘発の対象となり得ます。今回沖縄県警などが押収に踏み切れたのも、その法解釈を根拠に差し止め・収集したものと考えられます(販売目的所持等での押収)。また、海外からの持ち込みであれば税関検査で発見されれば関税法違反(禁制品密輸入)にも問える可能性があります。実際、沖縄県警は密売アカウントを複数把握しており、今後取引の実態解明とともに販売者の検挙を視野に入れているものと思われます。

国際的には、台湾やタイが既に先行して法規制を強化しています。台湾では前述の通りエトミデートを麻薬指定(第2級)するなど厳格化し、所持・売買に厳罰を科す体制を整えています。タイでも電子タバコ自体が違法という土壌ではありますが、薬物入りリキッドについて一層の取締り強化を打ち出しました。さらに韓国でも2023年末に食品医薬品安全処(日本の厚労省に相当)がエトミデートを麻薬類に指定する方針を打ち出し、法令改正を進めています。このように東アジア全域で同時多発的に規制の網がかけられつつある状況であり、日本だけが規制漏れとなれば新たな闇市場を生む恐れもあります。そのため日本政府も近くエトミデートを指定薬物に追加指定し、他国同様に所持・使用を犯罪とする可能性が高いでしょう。

摘発強化の動きとしては、現段階ではまず注意喚起と情報収集が主となっています。沖縄県のように自治体・警察から公式に注意喚起が出されたことで、少なくとも国内で公然と取引しづらくなり、販売側も警戒を強めていると考えられます。今後、指定薬物指定など法整備が整えば一斉摘発(売人の逮捕、在庫の押収)が実施される可能性があります。それまでは、水面下で捜査当局が流通経路や関与者リストを蓄積している段階と思われます。

また、教育・啓発面での対策強化も重要です。沖縄県が全ての学校に通知したように、このドラッグの存在と危険性を若者本人や保護者・教職員が認知することが拡大防止につながります。厚労省や文科省も薬物乱用防止教育の中で最新事例として取り上げるなど、需要側へのアプローチを強めるでしょう。供給側への規制と需要側への教育の両輪で、問題の沈静化が図られる見込みです。

以上のように、報道内容と並行して法規制の整備・摘発強化策が進行中であるといえます。報道が出たタイミングで既に厚労省が動いており、警察・麻薬取締当局も次の段階(摘発準備)に入っている点で、単なるメディアの警鐘に留まらず実際の法執行アクションと連動した状況です。

マッチポンプ構造の可能性についての考察

最後に、本件「ゾンビタバコ」騒動がいわゆるマッチポンプ的な構図で引き起こされている可能性について考察します。マッチポンプとは、自作自演で問題を起こしつつ自ら解決策を提示して利益を得るような行為を指します。本件で疑うとすれば、「誰かが意図的に問題(危険ドラッグの蔓延)を煽り、その解決(規制強化)によって特定の者が得をする」という構図があるかどうか、という点になります。

結論から言うと、現時点で明確にそのようなマッチポンプ的仕掛けが存在する証拠は見当たりません。以下、主な関係主体ごとにマッチポンプの可能性を検討します。

違法ドラッグの製造・販売者:彼らはドラッグの売買によって利益を得ていますが、規制強化されることは望まないはずです。報道によって社会問題化し当局の目が光ることは、むしろ密売人にとって不都合でしょう。仮に売人が自ら宣伝目的でメディアに情報提供するようなことがあれば短期的には客が増える可能性もありますが、それ以上に摘発リスクが高まります。従って密売人自身が問題を煽ったとは考えにくい状況です。

行政・規制当局(警察・厚労省など):今回、行政とメディアが連携して速やかに注意喚起したことから、「当局がメディアを利用して危機を煽り、規制を正当化したのでは」との見方も一部にはあるかもしれません。しかし、当局がエトミデート乱用という実在の新種ドラッグ問題に対処したのは事実であり、海外で実害が出ている以上、これは正当な職務行為と言えます。警察や厚労省にとって本件から直接的な利得が生じるわけではなく、強いて言えば「危険ドラッグ対策に成果を上げた」という評価や予算確保につながる程度です。これをもってマッチポンプ(問題そのものを意図的に作り出した)と見るのは飛躍があります。むしろ当局は後手に回らないよう迅速対応したというのが実情でしょう。

報道機関:メディアは視聴率や注目を集めるためにセンセーショナルな報道をしがちですが、本件もある程度その側面はあります。刺激的な呼称「ゾンビタバコ」を前面に打ち出し、衝撃映像や海外のゾンビのような若者の様子を伝えれば注目を集めるでしょう。しかし報道各社がこの問題を捏造・過剰誇張したという兆候はなく、沖縄県警の発表した事実やタイ政府の公式警告など確かな情報に基づいています。報道によってメディアが得るものは視聴者の関心と公益への貢献ですが、金銭的利得などは特にありません。強いて言えば「危険ドラッグ」を定期的に取り上げることで社会問題を喚起し、次なる報道ネタ(規制強化のニュース等)につなげる思惑はあるかもしれません。しかしこれもジャーナリズムの範疇であり、仕組まれたマッチポンプとは言えません。

他の業界・特定業者:例えば考え得るのは、伝統的たばこ産業や合法的な加熱式たばこ製品を扱う企業が、電子タバコ(VAPE)全体のイメージ悪化・規制強化を望んで裏で糸を引く可能性です。電子タバコ市場が危険ドラッグ混入などで締め付けられれば、競合する従来型たばこや加熱式たばこの相対的優位が保たれるという利点はあります。しかし現在のところ、そうした既存たばこ業界が本件に関与した形跡はありません。日本の電子タバコ市場は元々ニコチンリキッドの個人輸入規制など厳しく、JTなど大手も加熱式たばこに注力している状況です。ゾンビタバコ問題はニッチな違法ドラッグ領域の話であり、たばこ業界が仕掛ける動機・必然性は薄いと考えられます。

以上を踏まえると、「ゾンビタバコ」報道とその後の規制強化の流れは、自然発生的な社会問題への対応プロセスであって、特定の主体が意図的に問題提起から解決まで筋書きを描いたマッチポンプとは言い難い状況です。むしろ、海外で実際に起きている危険な薬物乱用事例が日本にも波及し始めたため、行政とメディアが協力して速やかに火消し(被害拡大防止)に動いたと見る方が妥当でしょう。

ただし留意すべき点もあります。報道の影響として、危険ドラッグの存在が広く知られることで「そんなものがあるのか」と興味本位で探してしまう若者が出るリスクは否定できません。いわば報道自体が意図せずドラッグの宣伝になってしまう副作用です。この点は、過去にも新種ドラッグ報道のたびに指摘されてきました。今回も「ゾンビ」というインパクトのある名称が一人歩きすることで、好奇心を刺激される層がいるかもしれません。しかし最終的には規制によって入手困難となる見通しであり、現在の報道姿勢は「煽り」よりも「抑止」を目的とした内容になっています。例えばANN報道では「買わない・使わないよう注意してください」という行政の呼びかけをそのまま伝えており、過度に怖がらせる一方で対策(使用しないこと)が明確に示されています。従って、報道各社も社会的責任の下で報じており、視聴者をいたずらに煽動しているわけではないと判断できます。

結論
現段階の情報を総合すれば、「ゾンビタバコ」問題は海外発の違法ドラッグ流行という実態が根にあり、日本の行政・報道がそれに対応している状況です。特定の企業や組織が影で問題を仕込み、表で解決策を提示して利得を得るという典型的なマッチポンプの構図は見受けられません。むしろ官民協力で公衆衛生上の新たな脅威に対処しようとしているフェーズであり、今後も情報公開と規制整備を進めつつ速やかな沈静化が図られることが望まれます。

なお、引き続き動向を注視し、万一この問題に不自然な利権構造や情報操作の疑いが浮上した場合は、改めて検証する必要があるでしょう。しかし現時点では、本件は純粋に薬物乱用問題への対策事例として捉えるのが適切と考えられます。